たとえどんなことがあってもその《育ての親》に不都合な事態を引き起こすことはなく、ましてや生命を損なうようなことは絶対にない。


 我輩はこいつを知らなかったばっかりにこっぴどい目に会っちまった。もしもこの事典をもっと早くに読んでいたら或いはこんな事件は起こらなかったかも知れない。しかし、現に事件は起こった訳だし、たいがいいつでも後になってああすればよかったこうすればよかったと後悔するものだ。それがお決まりである。

 さて、その後に書いてあることを要約すると、前者の〈左遷者〉の皆さんからは感謝感激の手紙が毎日のように舞い込んだが、後者の〈自殺志願目的地なし旅行者〉がこの《宇宙ヒマワリ》が開発された事により、相変わらず目的地は無いものの《宇宙ヒマワリ》の栽培をしているうちに自殺をするという目的を失ってしまったと銀河公正権利委員会に組合を作り代表を立てて弁護士を通じて正式に書面で苦情を訴えて来た。

 しかし、銀河公正権利委員会のイェイェサール委員長はその訴えを自殺志願者は、自殺を志願した段階で銀河公正権利法第十八項Pの四番に照らして権利外と認められるからという理由で何故か頑固に委員長権を行使して退けた。だが組合側のやり手弁護士はそんなことでは納得せず、それならば銀河公正権利法第四十九項Mの五百六十六番に権利外の権利というのがある。我々はその権利外の権利を行使して最後まで戦い抜くぞと息巻いたが、その言葉を最後に彼は組合員の前から忽然と姿を消し、次に姿を現したときは銀河種子株式会社側の《新参》顧問弁護士の一人となって高級車を乗り回していた。あまりの変わり身の早さに組合側は暫く呆然自失だったが、それならそうでこっちにも考えがあると弁護士無しでも戦い抜いてやるぞと決意を新たにした矢先、銀河種子株式会社側顧問弁護団のずらっと総額九百七十万メガ・アース・ドル(辺境の小惑星ならそれこそこの半額で買うことが出来る!)のデザイナーズブランドのスーツ達がじつに鼻持ちならない態度で札束をちらつかせた為、組合側の代表であるパークス・ピルクス・パ−クスは、その瓜のような顔がそれこそ瓜のように緑色になるほど激高して、弁護士達をこの薄ら瓢箪と罵り、じゃがいもと見分けがつかなくなるほどブン殴った為、委員会より権利外の権利を今回だけ特別に剥奪するという銀河公正法第十八項Pの四番特別補足事項を申し渡され銀河公正権利委員会本部ビルより叩き出された。それによって銀河種子株式会社は一アース・セントの違約金も払わずにこの問題を解決する事が出来、その上委員会のお墨付きと《宇宙ヒマワリ》の永久販売権を手中にしたのだ。

 その後、その委員会に勝つために銀河種子株式会社側の使ったリベートはまさに天文学的数字に達するという噂が宇宙中で囁かれていたが、本当のところは定かではない。ただ蛇足ながら委員会の後でイェイェサール委員長は急に羽振りが良くなり、高級観光惑星の一等地に真っ白い壁の別荘を建て、つい最近まで昼夜を問わず盛大な仮装パーティーを開いていたのは事実である。

 そしてパークス・ピルクス・パークスはと言うと、委員会に負けたのは自分の責任だからその責めを負って自殺をするしか組合の皆んなに顔向けできる方法はないと公言。宇宙に逃走した。

 後に彼は惑星フォーマリオスの彼の妻名義の農場でその当時を振り返り「あの時死ぬ理由を見つけて本当に生き返る思いがした」と語っている。

 
 


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