『ひまわり日記』

惑星パパジャイカで〈なんにもしないをする為にはどのようにすればいいのか?〉というきも≠ツまり究極の問題を解決した後――まぁ、そんなもの我輩に言わせりゃあ、赤ん坊の手をひねるような他愛もないことだが――、我輩は高性能小型宇宙飛行船〈パンとパン粉〉号で仮定宇宙空間を全くあり得ない程のスピードで、しかしちゃんとあり得ながらブッ飛んでいた。

 その中にある洒落たバロック調の食堂で、我輩は今目の下にアザを、額に玉子ほどのタンコブをこしらえて、しかめっ面をして腕組みしている。
 そのなんともバカバカしい理由を説明するのにはまず、あの宇宙一バチ当たりな《宇宙ヒマワリ》――《宇ヒ》と略される。――の事を諸君に知ってもらう必要があるだろう。

 判らないことがあったらどうすればいい?

 そう、辞書を引けばいい。

 今我輩の宇宙服の左胸の隠しポケットの中、丁度心臓の真上の位置にプラチナ・コートしたポケット版プレスタイン百科事典【最新版】――こいつは皆さんも知っている馬鹿気た理由から宇宙服のメーカーが入れているサービスなのだ――がある。

 先ずそいつを使って《宇宙》の項目を引用してみよう。

宇宙【名詞】

  一般的には全く広い空間のこと。それはもうあきれる程でっかく、全然ビッグなもの。まるで無限に続くかと思われる程びっくりする程でっかい、が、有限の空間。東京ドームが幾つ入るか想像も出来ない程グレイトだぜ、と神宮球場で試合をするために三ヶ月前からただただ漠然と交替で並んでいる町内草野球チームの三割打者を唸らせる程〈でっかくて、ビッグで、グレイトな〉もの。

――とある。

この場合『東京ドーム≠ェ全宇宙にとってどれ程の意味を持つのか』や『件の町内草野球チームの三割打者が一体全体誰か』とかいう詰まらない問題は別にして、ここで我輩が問題にしたいことは、その〈でっかくて、ビッグで、グレイトな〉空間を旅したり、またその〈でっかくて、ビッグで、グレイトな〉空間にたった独りぽっちで単身赴任しなければならないお父さんにとって、その〈でっかくて、ビッグで、グレイトな〉空間は、気も狂わんばかりの孤独感との戦場なのだということである。

 その孤独を癒すためにはどうすればよいかというアンケート調査を〈全宇宙辺境地域左遷者〉と〈自殺志願目的地なし旅行者〉の間で行った結果つくられたのがこの《宇宙ヒマワリ》なのである。

 そこまでは、幼稚園の子供でも知っていることだが、それ以上に《宇宙ヒマワリ》について知りたいのなら『宇宙時代のパイオニア、あわてる前に一家に一冊』と謳われているプレスタイン社出版の汎銀河大百科事典【第三版】の《宇宙ヒマワリ》の項目を調べてみるといい。

 以下、その項を書き抜いておく。

 《宇宙ヒマワリ》【名詞】

 ――宇宙空間での絶対的な孤独を癒す為にどうすればよいかという疑問を解決するために行った〈全宇宙辺境地域左遷者〉と〈自殺志願目的地なし旅行者〉を対象にしたアンケート調査の結果、銀河種子株式会社の依頼でバイオテクノロジィの権威、ヨホ・テルーシ博士によって作り出されたヒマワリの変種。生物学的に見ると植物に属し、植物学的に見ると動物に属する。しかし、動物というよりはある刺激に対して一見出鱈目なように見える複雑で雑多な既成情報を基に、自分の行動を決定し、実行するようにプログラムミングされているコンピューターを持った植物アンドロイドであると言える。

 また、ヒマワリは《育ての親》にのみ反応するようにその行動形態がすべて数学的に制御されており、たとえどんなことがあってもその《育ての親》に不都合な事態を引き起こすことはなく、ましてや生命を損なうようなことは絶対にない。

 こんなふうに始まっている。


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